株式会社継手意匠店

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Villa della Pace

PART.4「武士の顔」

庭師さんをはじめ、今回のプロジェクトには多くの作家が参画してくれて成立している。ロゴを作る書家や、写真を撮るカメラマン、器をつくる作家などなど。基本的には平田さんが個人的に好きな作家さんに声をかけ、チームが編成されている。そして彼から仕事を託された全員が、「こんなに悩んだ仕事はない」と、口を揃える。

平田さんのオーダー自体は至極シンプルだ。「あなたの世界観のまま、この場所の自然を表現してほしい」というもの。平田さんにとって、リスペクトすべきは土地であり、自然の恵みであって、あくまで本人は「料理人という役割をやっている人」というくらいの位置付けだ。「こんな表現をしたい」といった依頼主の強い自己主張(=オーダー)がない分、広大な自然を前に作家たちは一度立ちすくむのだった。

平田さんがそんな価値観をもつようになったのは、苦しい時期の経験が根っこにある。東京で修行し、石川県七尾市でイタリアンレストランを開くも「料理への思想も、自分は何もないまま店をもってしまった」ということを、店を始めてから気付かされたという。経営的に厳しくなったこともる。食材を仕入れられないから地元の山に行ったり、直売所で知り合ったおばあさんが採るキノコや山菜を使うようにもなった。その中で、能登の食材の力強さ、そして自然の恩恵への敬意が生まれ、「自然を感じてもらうために人の手を介す/人の手を介すことでより自然に違い状態に戻す」ということが自分のやりたいことだと気付いた。だからこそ、その世界観を細部にまで統一させないと、そこに違和感がある。お客さんにとってのストレスになる、と彼は考える。海岸のゴミ拾いだって自分でやる。僕はよく “関係性のデザイン”という言葉を使うけれど、これは互いに敬意を持ちあわないと成立しないものだと思っている。だから仕事に対してクリエイティヴが欠如した人が手を加えたところは恐ろしく悪目立ちする。それで外れてもらった業者さんだってある。

そんな平田さんが真正面から本気で向かってくる時に、こちらも裸一貫でぶつからないと話が通らないわけである。誰しも、ビジネスではある程度バリアを張って、そつなく接しようとするものだ。けれど、素っ裸になって、完全に開放したときの人の顔はこうなるのか、ということを僕はこの案件で幾度となく目にしてきた。言うなれば、もはや“武士の顔”である。予定調和なものがないということは拠り所がなく、不安だし確かにキツイ。「いい感じにオシャレにしてほしい」と言われる案件の方がよっぽど楽だ。けれど、腹を決めたメンバーが集まって全員が振り絞ったセッションをやると、こんなにもいい景色が見られるのか、ということを、これもまた平田さんが教えてくれたのである。